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デジタルモンスター、特にデジモンフロンティアについて、一ファンの視点から様々な記事を展開しています。

この進化バンクがすごい!~カイゼルグレイモン&マグナガルルモン(デジモンフロンティア)編~

風は炎に…!

氷は炎に…!

雷は光に・・・!

闇は光に・・・!



ハイパースピリットエボリューション!!


2002年12月8日にデジモンフロンティア35話『スピリットを一つに!拓也と輝二の究極進化』が放送されてから、今年で15年になります。
この回では作中強化フォームの『超越形態』カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが初登場し、ついでに進化バンクも披露されました。12月という季節柄、俗にいう”クリスマス商戦”に合わせての登場と考えられます。
デジモンフロンティアの進化バンクは全体的にクオリティが高いという話はヴリトラモンの項目で既にしましたが、超越形態の進化バンクは、作中屈指、いやデジモンシリーズ中でも最高峰の完成度を誇ると言っても過言ではないでしょう。その証拠に、プロデューサー補・馬場さんは『ベストヒットパレード』初回特典の小冊子で『もっとも好きな進化シーンのひとつ』と語っています。またファンの間でも「キャラはともかく、バンクはカッコいいし好き」という、褒めてるんだが褒めてないんだが分からない賛辞の声を見かけます。
かくいう自分も、「どの進化バンクが一番好きか?」と聞かれればこれを挙げるほど、印象的な進化バンクです。
今回は、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンの進化バンクの良さについて、個人的な見解も含め解説していきます。





まずは主人公・拓也が進化するカイゼルグレイモンから。



カイゼルグレイモン




出だしで炎のスピリットが暗闇に浮かび上がり、10個のスピリットが次々と現れて幾何学的な模様の座に収まります。
『フロンティア』は他デジモンシリーズと比べるとファンタジー色の強い作品ですが、このシーンも幻想的で厳かな雰囲気が強調され、バンク直前に挟み込まれる「〇〇は××に~」もあいまり、まるで何かの儀式です。


次にディースキャナをかざした拓也が登場。ここでは拓也の表情に注目。


以前のバンクでは拓也は真剣な表情をしており、どこか緊張しているようにも見えました。

ですが今回のバンクでは、ディースキャナをかざす時に自信に満ちた表情を見せています。
ちょっとした変化のように思えますが、これまでの冒険で何度も死線を潜り抜け、拓也が闘士としての自覚を身につけたようにも見えます。自信・余裕・落ち着き…今までの冒険の成果がこの表情に現れているようで、ほんの一瞬ですがとても印象的なカットです。こういう成長の描写っていいよね。


テイマーズの進化バンクはテクスチャが剥がれる描写が印象的でしたが、フロンティアの場合はテクスチャの代わりに服が剥がれます。真っ裸ーニバルです。
これには一部の大きなおともだちも大興奮したことでしょう。一方で、メインターゲットであるちびっこ達にはどう映っていたのか…
自分がちびっこだった時は、親と一緒に見ると気恥ずかしかったことを覚えています。今は普通に好きです(汚れた大人)



スピリットを纏う瞬間、拓也が「くっ」と顔を歪めてるのが好き。製作者のフェチズムを感じる。

拓也の身体にスピリットが纏われ、装甲が形成されました。
一見普通の変身シーンですが、ここでポイントになるのが、当時バンダイから発売された玩具です。

www.bandai.co.jp

同社発売の「聖闘士大系」や「装着変身」のような、いわゆる「クロス玩具」と呼ばれるもので、素体となるアクションフィギュアにアーマーを装着させることで変身を再現したり、様々な形態への組み替えを楽しめます。
バンクには玩具販促の目的もあると以前の記事で書きましたが、この進化バングでは、実際の玩具のギミックがわかりやすく、かつ本編のイメージから乖離しない形で取り入れられています。良い連携といえるでしょう。
販促云々を抜きにしても、登場人物が直接的な形でアーマーを身にまとうのって、すごく特撮的な演出だと思います。ですが『デジモンフロンティア』は元々ヒーローものを意識して制作されたと関係者も語っているので、こういう演出は理にかなってると言えます。より”変身してる”感が出ているというか。



龍の魂が封印されたという『龍魂剣』を振るい、炎を切り払う。
力強い動きはガッチリとした体型とマッチしており、さながら鎧武者を連想させます。剣を振る動作が挿入歌のイントロとシンクロしており、音がハマる感覚も気持ち良いです。




「カイゼルッ!グレイモン!!」

剣を正面に突き、ポーズを決めて進化完了!カッコいい!!!


ここでアグニモンの進化バンクと比較。見比べてみると、最後の決めポーズ(右腕を前に構える)が同じになっているのが分かります。バンクの担当が違うので偶然構図が被っただけだと思われますが、元々の質がいいので、こんな偶然もいいものに思えます。



次はクール担当・輝二が進化するもうひとりの超越形態、マグナガルルモンの進化バンクを見ていきましょう。



マグナガルルモン






寒色系の色が多いからか、こちらは拓也よりも全体的にスッキリしています。デジコードをスキャンするときの動作もよりキレが良い。
拓也とは打って変わり、輝二は終始真剣な表情を見せます。しかし掛け声には気合いが入っており、普段はクールだけど内に熱を込める輝二らしさが出ています。






ここ(で急接近して目がどアップになるの)すき



着地→右腕のランチャー発射→ミサイル展開→硝煙を右腕で切り払う→決めポーズ

この一連の動作が死ぬほどカッコいいんですよ!全身を使ったスピーディで躍動感のある動きに全弾発射の爽快感が合わさり、『重武装』と『スピード』が売りのマグナガルルモンらしさが全面に押し出されています。背中のリボンも着地に合わせて垂れたり爆風に靡いたりと、細やかな動きで更なる躍動感を生みだしています。
非常に情報量が多いので、わずか数秒のシーンですが強烈なインパクトがあります。


「マグナガルルモンッ!!」

下から射し込む光が金属の光沢を連想させ、サイボーグ型デジモンらしい質感を高めています。右腕に装備した『スナイパーファントム』やミサイルの大盤振る舞いで、カイゼルグレイモンよりもエフェクトが派手ですね。華奢な容姿にゴツい兵装というアンバランスなスタイルが、ちびっ子やオタクの心をくすぐります。



進化する際、カイゼルグレイモンは身を引いて全身を画面に映すのに対し、マグナガルルモンは画面に突進してくるのですが、通して見るとメリハリが効いててかなりカッコいいです。



この進化バンクの原画を担当されたアニメーターは、大塚健さんと。山室直儀さんの2名です。山室さんは劇場版の作画監督でもあります。
大塚健さんと言えば作画オタクにはお馴染み、
エウレカセブン
ガイキングLOD
最近だと『鉄血のオルフェンズ
といった、ロボットアニメを中心に活躍されているアニメーターです。
デジモンでもいくつかの作品で原画に携わっており、バンクに限れば

テイマーズ:タオモン、サクヤモン(氏のツイッターより)

クロスウォーズ:シャウトモンX5、他

等が挙げられます。

また、2018年7月にTwitter上で
アグニモン
フェアリモン
シューツモン
ヴリトラモン
マグナガルルモン
の進化バンクを手掛けたことを明らかにしました。


タオモン、サクヤモンの進化バンクで特徴的だった華麗な着地シーンやエフェクトは、超越形態のバンクにもしっかりと引き継がれています。





音響面


動きの良さについては一通り語りましたが、この進化バンクの凄さはそれだけではありません。挿入歌や声優の演技もとってもアツいです。
まずはこちらのツイートをご覧ください。



編曲を担当した渡辺チェル氏は、ツイッター上でこのように話しています。
それだけ思い入れがあり、また気合いの入った曲と言うことですね。

爽やかな印象の前期挿入歌『with the will』とは異なり、後期挿入歌の『the last element』は情熱的な一曲に仕上がっています。静かな出だしから主旋律のエレキギターが鳴り響き、重く響くベースとの相乗効果でグンとテンションが上がります。
歌詞は戦いに赴く拓也達の心境が全面に押し出されていますが、特に「負けるはずがないのさ 皆の魂が集ってるこの姿なら」という歌詞は、アユミさんの魂のこもった刹那い歌い方も相まり、まるで拓也たちがそう主張している様にも聞こえ、胸を打たれます。

激化する戦闘、やがて拓也達の物語が伝説から神話へと進化する、そんなフロンティア終盤の展開にふさわしい名曲だといえます。



挿入歌と同じく、声優の演技も見逃せません。
拓也役の竹内順子さんの演技は相変わらず冴えています。
ヴリトラモンやアルダモンのような苦しそうな呻き声と違い、ハイパーでは気合いのこもった凛とした叫び声なのがいいですね!
叫び声は迫力満点ですが、カイゼルグレイモンに進化する時にあえて声の抑揚をおさえてて、それが逆に威厳が出て良い…。
個人的に印象深いのが、輝二役の神谷浩史さんの演技です。今でこそ人気声優として多くのファンを持つ彼ですが、フロンティア放送当時はまだまだ駆け出しで、今ほどの知名度はありませんでした。だからといって演技まで今より劣るかと言われると、決してそんなことはありません。
近年の神谷さんは『Fate』シリーズや特撮等でテクニカルな演技が目立ちますが、デジモンフロンティアではストレートでかっこいい、体当たりの演技を聴くことができます。叫び声の響く感じが好きなんですよね。

拓也達の心情に迫ったアツい挿入歌、声優二人の本気でぶつかるような魂のこもった演技が、この進化バンクが持つ熱量をより際立たせているのです。







強敵との戦いに臨む緊張感、今までよりも強大な力を身に纏う高揚感、そしてロマンがこの進化バンクには溢れています。
このクオリティを支えたのは、確かな技量を持った作画スタッフや歌手、声優といった、ありとあらゆるクリエイターの努力です。『フロンティア』はデジモンアニメシリーズの節目の作品となってしまいましたが、終わりの時期にこのような創作物を世に送り出すことができたことに、自分は非常に大きな意味があると思っています。
『アドベンチャー』から進化バンクの歴史が始まり、『02』『テイマーズ』と続いてきましたが、『フロンティア』でようやく一つの到達点に辿り着くことが出来たのです。そういう意味では、超越形態の進化バンクは間違いなく歴代最高峰の進化バンクといっていいでしょう。





























ここで終われたらよかったんですけどね。

問題点

散々ほめた後にこんな項目を書くのも心苦しいのですが…。

このバンクには無視できない問題点がいくつかあります。正確には、このバンク自体の問題というより、バンクを流した後、つまり本編の展開にどうしようもない問題が待ち構えているのですが。その問題点があまりに大きすぎるせいでバンクにまで風評被害が発生するという由々しき事態となっています。
この超越形態、作中だとハッキリ言って全然強くありません。敵(主にロイヤルナイツ)が強すぎるのか、はたまた味方が情けないのか、とにかくやられまくります。
有志の調査によると、作中通してカイゼルグレイモンの勝率は44パーセント、マグナガルルモンに至っては33パーセントと、お世辞にも高いとは言い難い。超越形態に進化するためには他の仲間のスピリットも使用する(=仲間が進化できなくなる)必要があるため、「仲間の活躍を犠牲にしておいて、この戦績は…」とファンから反感を持たれることも少なくありません。しかも勝てないとなれば猶更。



オレ様は分離君だ!

特にマグナガルルモンですが、作中だと必殺技(これもバンクです)を使うたびにすぐ武器を投げ捨てるほど燃費が心許ないのに、進化バンクで一斉掃射しているので「弾薬の無駄遣いじゃないか?」とツッコまれています。せっかくの演出が完全に裏目に出ています


執拗に描写されるあまりの負けっぷりに、某動画投稿サイトでは超越形態の進化バンクや挿入歌が流れると「処刑用BGM」とコメントされるという、ちょっとした珍事が発生しています。たちが悪いことに、挿入歌に『負けるはずがないのさ』という歌詞があり、それをもじって「負けるはずがないのさ(大嘘)」と言われることもしばしば。どうしてこうなった…

バンク自体は本当に完成度が高くて素晴らしい出来なんですよ!ただその完成度が本編の展開と乖離していたという…
実はここで冒頭で話した「キャラはともかく、バンクはカッコいいし好き」が繋がってきます。キャラの描写や扱いにもう少し気を使えていれば、或いはと思わなくもありません。色々と勿体ないです。



まとめ

最後はネガティブな意見が目立ってしまいましたが、避けては通れない部分でしたので…。気分を害された方がいましたらこの場で謝罪します。
いくら本編の展開があれだとしても、このバンクその物の魅力が下がるわけではありません。見方を変えれば『わずか1分足らずで2匹の魅力を描き切った』ということでもありますから。
これってスゴイことではないでしょうか?
とはいえ、今後ファンの間で進化バンク『は』カッコいいと言われるのも可哀想なので、バンクの質に見劣りしない晴れ舞台を用意してほしいものです。今のデジモンにとっては難しい注文でしょうが…。