end of the line

デジタルモンスター、特にデジモンフロンティアについて、一ファンの視点から様々な記事を展開しています。

デジモンフロンティア ドラマCD『伝えたいこと』感想

 

今も昔もファンに楽しい時を提供するデジモンシリーズですが、過去には特に調子に乗っていた時期がありました。

『フロンティア』放送終了後、かつてのNECインターナショナルは、アニメ終了記念としてシリーズ4作品のドラマCDを同時発売しました。BDBOX発売に伴い新作ドラマCDが制作されるということで、今回の記事ではそのうちのひとつ『デジモンフロンティア オリジナルストーリー 伝えたいこと』をご紹介します。

 

 

 

同時発売といえど別の作品なので、当然ですが脚本・演出などは別々の人が担当しています。そのせいかは分かりませんが、例えば収録時間にもバラツキがあり

アドベンチャー…38分

02…38分

テイマーズ…64分

フロンティア…34分

と、フロンティアが最短となっています。何か嫌な予感がしますが、『ぼくらのウォーゲーム』だって一般的な映画の半分の時間しかないのにあの密度ですので、尺の短さは内容でカバーできるはずです。確かめてみましょう。

 

パッケージ・封入物

f:id:GraceCrossFreezer:20181004234051p:plain

寒さの和らいだ春の昼下がりのような、穏やかな光景にほんわかとしますね。オシャレな店に売られてそうな棚に飾ってずっと眺めていたい。拓也達はあまり現実世界で活動することはありませんでしたが、だからこそ新鮮な印象を与えます。

いつもと同じようで部分的に異なる服装もポイント。輝一がわかりやすいですが、他のメンバーも所々違っているので探してみると楽しいかも。中央に配置された拓也のリラックスした表情はほほえましく、手に切符を握っているのが一話を彷彿とさせて感慨深いです。

 f:id:GraceCrossFreezer:20181023230330j:plain

正方形のキャンバスにキャラを収めようとした弊害でしょうが、純平以外誰も黄色い線の内側に下がってお待ちできていません。

特に輝二…実兄に会いたすぎだろ。

というか、駅で偶然出会い、様々な異世界の駅を巡った6人組が、今度は現実世界の駅で再会する構図、メッチャよくないですか…?粋な計らいを感じさせます。

 

f:id:GraceCrossFreezer:20181025161421j:plain

ちなみに、ジャケットイラストのモデルは東急東横線自由が丘駅のホームだと思われます。拓也の故郷ですね。上の写真は先日自由が丘駅で撮影したものです。線路が原画より広くなってたり、奥のビルがなかったりと異なる部分もあったものの、右奥の黄色の建物(グレッグ外語専門学校)でなんとか判別できました。

ジャケット後ろのビルは2018年の時点で取り壊されたのか、あるいはそんなもの最初から存在していなかったのでしょうか?そ当時の写真と光景が変わっていると、嫌でも16年という年月の重みを感じてしまいます。東横線渋谷駅も地下に潜っちゃったしね…。

f:id:GraceCrossFreezer:20180819160027p:plain

ドラマCDにはサイコロシートがおまけとして付いてきます。この特典は無印からフロンティアのCDまで共通しています。

キャラクターの生首がプリントされたサイコロ。シュールだ。

これでTRPGでもしたら楽しそうですね。

 f:id:GraceCrossFreezer:20181028194736j:plain

裏面の場面チョイスもセンスがあります。

 

 内容紹介

 このドラマCDは、拓也から輝一の主要キャラ6人が、本編では語れなかった様々な思いを手紙で伝える…という形のオムニバスストーリーです。そのため、キャラ同士の掛け合いはほとんどなく、キャラの発言から個人の考えや関係性を読み取ることになります。

 

拓也『拓也の家族への手紙』

主人公かつトップバッターですが、よくいえばぶっ飛んでる、悪く言えば内容の薄いパートです。

f:id:GraceCrossFreezer:20181023013338p:plain

感想を画像一枚で表現するとこんな感じ。

拓也が「急にいなくなってごめん!でも元気だから心配するな!」と家族に向けて生存報告する内容になっています。

もともと家族仲は良好、9話の時点で『デジタルワールドに来て一か月経過した』と発言したこと、家族に旅立ちを伝えてないとなれば、今頃家族が心配してるだろうと思い手紙を送りたくなるのも当然でしょう。これは全くおかしくないと思うんです。問題はその中身。

実は、このパートの収録時間は3分26分と6人中最短なんです。マジ?

最短ならまだいいんですが、一度言ったことをほぼそのまま復唱する(しかもヘッタクソ)し、そのうえ唐突に早口言葉(原作とはほぼ無関係)を披露するので、ただでさえ少ない尺が半分近く削られています。早口言葉にいたっては最早声優ネタでは…アドリブといわれても納得するわ!

「拓也をしょうもないギャグで消費するな」と言いたい訳じゃありません。ただベストヒットパレードのボーナストラックもギャグ寄りの内容なんで…。ギャグ目当てで聴くならあっちの方がキレがあって面白いし…。

デジモンフロンティア ベストヒットパレード

デジモンフロンティア ベストヒットパレード

 

 「草野球ばっかしてんじゃねーよ!」ほんとすき

拓也はデジタルワールドで様々な経験を積んだ筈で、それなら拓也の口から伝えられることはもっとあると思うのです。例えばロイヤルナイツ編とか。まあ、思ったことはハッキリと口にする拓也にとっては、今更改まって伝えたい相手なんて意外といないのかもしれません。もともと拓也は主人公だし、本人(と本人を介した脚本家)が伝えたいことは本編で語りつくしたとも考えました。

でも拓也は冒頭で『普段は語れなかった熱い思いを伝えたい相手にお手紙する』って言ってたし、やっぱりもっと拓也の口から色々聞きたかったです!悪くはないけど内容が薄い!

ああ、弟にこっそり秘密を教えるのは良かった。やっぱりお兄ちゃんなんだなあ。

 

出だしでいきなり出鼻を挫かれましたが、残りの5人はこいつほど虚無ではないのでご安心ください。

 

泉『泉のラブレター』 

ラブレターと書いていますが、ガチな愛の告白というより男性陣へのメッセージ程度に抑えられてます。無用な争いを産み出さない賢明な判断でしょう。この頃の女の子の「男子って子どもよね~」というオマセな感じがよく出ていますね。ただし輝二へのメッセージは

「なぜ?その蒼い瞳は、憂いを秘めているの…?」

「なぜ?その唇は恥じらいをたたえてつぐんでいるの…?」

と若干ポエムと化しています。

輝一への「あんまり話せなかったからもっとお話ししたかった(要約)」という発言が、かつてアルバムにも似たようなことを書かれたボッチ学生時代を思い出させて辛い(私情)。

 

純平『泉を狙え!究極の作戦!!』

最早持ちネタと化している泉への愛情をこれでもかとアピールしています。どちらかと言えばギャグパートでしょうか。

純平はどうにも残念なところがありますが、そこも彼の魅力だと思います。勢い余って自滅する場面も多々見受けられましたが…。進化ノルマ(そんなものはない)を満たしつつ綺麗にオチもつけ、フロンティアらしさを表した一篇になっています。

純平の妄想に登場した『カミナリモン』って大昔のVジャンプにいたような…?

 

友樹『兄ちゃんへ』

兄ちゃんへのメッセージの体を取りつつ、他のメンバーやデジタルワールドを紹介したり、この世界で何を得たかについて語ったりと、全体的に手堅くソツがない内容です。

友樹の場合は「デジタルワールドの荒野の真ん中にポストが立っていたので、いてもたってもいられなくなり、ペンを取った」とシチュエーションの肉付けが行われています。

フロンティアのDWって他シリーズより特にメルヘンなのに妙なところで現実感があって、自分はそんなふわっとした空気が好きなのですが、友樹の説明はそれらしさが如実に表れていると思います。

 

輝二『輝二から輝一へ…』

輝一『輝一から輝二へ…』

ありがとう輝二…一緒に生まれてきてくれて…(エコー)

現実世界で再会した二人が日々を振り返りつつ、誕生日プレゼントについて悩むという内容。

「毎日電話で話している」

「でも最近はそれだけじゃ足りない」

「一緒に海外旅行に行きたい」と

重い兄弟愛を感じさせるシーンがいくつも登場します。誰も触れない二人だけの国が出来上がっています。

輝一は中ボス(ケルビモン)戦直前という中途半端な時期に加入し、直後にハイパースピリットエボリューション登場ということもあって、キャラ単体の掘り下げがあまり出来てなかったんですよね。なのでこういう場で優先的にフォローするのは重要なことだと思います。

収録時間は二人で合計14分弱と、中々のボリュームになっています。ファンにとっては嬉しいのではないでしょうか。

互いに相手への巨大感情を吐露するのは創作の鉄板要素ですが、それにしてもこの二人はそれが徹底されすぎて他人の惚気を聞いてる気分になります。

 

 

まとめ

ライターの熱量をビンビンに感じさせる章もあれば淡白な章もありと、出来の差にムラがあると感じました。これは複数ライター制を取っているからでしょう。

富田祐弘→拓也・泉

大和屋暁→友樹・純平

成田良美→輝一・輝二

納得のいくメンツと担当回です。ギャグが冴える大和屋先生、マクロな人物描写に力をいれる成田先生、富田大先生は…ほわほわしてますね。

重要な裏設定や作中の補完といった要素は薄く「これを聴かないとデジモンフロンティアを理解できない!」ってことはないので、そういう意味では良心的でしょう。ファンアイテムとしても必要最低限の要素は満たしているので、本編で物足りなく感じたら聴いてみるのがベストだと思います。

あと「単品で完結している」のも地味に強いです。これが「続編を匂わすだけ匂わせといて続報なし」とかだともやもやしてしまうので。続編の保証があれば悪くない試みなんですが。

 

歌舞鬼姫  桶狭間 決戦 (祥伝社文庫)

歌舞鬼姫 桶狭間 決戦 (祥伝社文庫)

 

 以前このブログで「時代作家」と紹介した富田祐弘先生ですが、つい先日新刊が発売されました。

富田先生は女忍者が好きすぎる。

ざっと読みましたが、意外にも起承転結がしっかりしており、特に最後まで読んだあとにタイトルを見返すと「伏線回収」とでもいいますか、この主人公に相応しいと感動させられました。

一人の男性を巡る女たちの駆け引きも生き生きと描写されており、流石に長年少女漫画の原作やアニメを手掛けたベテランだけあると思いました。

これを読めば富田先生の最近の傾向が掴めるので、新作ドラマCDを心待ちにしている方は一度手にとって読んでみてはいかがでしょうか。まだ誰が担当するか分かんないけど。 (2018年12月 追記:判明しました。詳しくは次の記事で)