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デジタルモンスター、特にデジモンフロンティアについて、一ファンの視点から様々な記事を展開しています。

海外のデジモン漫画を読んでみよう~余遠鍠を知っていますか~

 2018年の時点で20年以上の歴史を持つ『デジモン』シリーズ。アニメ・ゲーム・漫画など幅広いメディアで数多くの作品が生み出されてきました。
特に漫画では『C'monデジモン』に始まり『Vテイマー01』近年は『アプリモンスターズ』『アプモン学園!!』*1といった良作が存在し、デジモンユニバースの幅を広げるのに一役買っています。

 

 一時期プレミア価格だったVテイマー01ですが、現在は電子書籍版が販売されており、以前よりも気軽に読むことが出来ます。

 

そんなデジモン漫画ですが、実は海外限定で発売された漫画が存在するのはご存知でしょうか?

国内のみならず海外でも一定の支持を誇るデジモンシリーズ、当然海外限定の商品も多数出ています。特に人気だったアジア圏や北米では、ここでしか発売されなかったデジモン漫画がいくつかあります。
海外限定のデジモン漫画とひとくくりにしても色々ありますが、その中でも特に完成度の高いコミカライズが存在しました。

 

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今回はアニメ初期4作(アドベンチャーフロンティア)のコミカライズを担当された漫画家『余遠鍠』さんと、彼の作品の持つ魅力について紹介していきます。

 

(今回の記事は国内未発売、かつ発売から15年以上経過してる題材を扱うにあたり、一部事実と異なったり、情報不足の箇所がある可能性があります。あらかじめご了承ください。また、情報が間違っている箇所がございましたら指摘していただけると幸いです。)

 

 

 

余遠鍠とは何者か?

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 漫画の紹介に移る前に、まずは作者の情報を整理しましょう。

余遠鍠(Yuen Wong Yu)さんは香港で活躍中の漫画家で、主に子供向けの漫画を執筆されています。

手持ちの漫画の袖部分に作者紹介が載っていますが、当然中国語で書かれているので翻訳して載せます。

 

誕生日:11月18日

星座:蠍座

お気に入りの漫画家:手塚治虫鳥山明

お気に入りのデジモン:パグモン(描きやすいから)

お気に入りの漫画:マコとルミとチイ、火の鳥

好きなこと:睡眠

 

お気に入りの漫画家に鳥山明さんを挙げていますが、元々デジモンアニメ(初期4作)は鳥山さんにキャラデザを依頼する予定でしたが近い絵が描けるという理由で中鶴勝祥さんが起用された…という経緯を踏まえると適材適所ではないでしょうか。

 

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好きなデジモンに『描きやすさ』から『パグモン』を挙げるところにプロとしての潔さを感じます。

 

どんな漫画を手がけたの?


余遠鍠さんの代表作は『數碼暴龍』(デジモン)シリーズ、『大偵探福爾摩斯』(シャーロックホームズ)です。大偵探福爾摩斯は2018年2月の時点で既刊40冊と、かなりの人気作品です。

www.books.com.tw

教育的な要素も含む子供向けの小説シリーズだそうです。直接の関係はないでしょうが、デザインがアニメ「名探偵ホームズ」を彷彿とさせます。

 

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現在は香港版ホームズで人気の余遠鍠さんですがかつてはデジモンの海外コミカライズを手掛けていたこともあります。デジモンシリーズの版権を所持しいてる東映アニメーションバンダイの許諾を得た、れっきとしたオフィシャルグッズです。

初めは香港の漫画雑誌に掲載され、そこから台湾・北米・オーストラリア…など全世界に翻訳されていきました。

では、余さんは香港の雑誌でどのようなデジモン漫画を描いていたのでしょうか? 

 

 掲載の歴史・漫画一覧

 

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 デジモンのコミカライズを掲載していたのは、正文社(Rightman Publishing)の『CO-CO!』という雑誌です。「CO-CO!」とは何ぞや?という読者の方がほとんどだと思いますので、出版社の公式サイトの紹介とともに解説します。

「CO-CO!」とは
正文社は、1997年2月に子供向けの新しい漫画情報誌「CO-CO!」を初めて発売しました。隔週誌では記録的な8万部を突破し、香港で最も人気のあるコミック誌でもあります。 CO-CO!は、「ミニ四駆」、「超速スピナー」、「ビーダマン」、「デジモン」など数多くのおもちゃ会社と協力して、幅広い企画をしています。 ”デジモン "、"大貝獣物語 THE MIRACLE OF THE ZONE"、"ベイブレード "などは香港でブームを起こすことに成功しました。

CO-CO!は地元の漫画家による多くの人気漫画の発行と流通を奨励しています。その中には「ザ・キング・オブ・ファイターズ」「デジモン」等があり、海外および国内の販売が成功し、海外でも多数発行されています。

正文社出版公式ホームページ、会社紹介より、一部翻訳抜粋)

 

つまり、少年向け玩具やアニメのコミカライズを掲載する、香港版『コロコロコミック』のような雑誌というわけです。

時系列順にまとめると

  1. 香港でコロコロコミック的な児童雑誌「CO-CO!」が発行され、人気を博した
  2. 余遠鍠さんは「CO-CO!」上で『デジモン』を題材としたコミカライズを連載していた
  3. そのコミカライズは国内のみならず国外にも輸入され、世界で読まれる事となった

ということになります。

Co-Co!は現在でも香港で発売されちびっ子たちに親しまれていますが、過去にはデジモンの漫画も掲載されてたとは驚きですね。

 余さんがCO-CO!上で連載したデジモン漫画は以下の通りです。

  1. 激鬥!!數碼暴龍(1998-1999
  2. 數碼暴龍 DIGIMON ADVENTURE(2000
  3. 數碼暴龍02 DIGIMON ADVENTURE 02(2001)
  4. 數碼暴龍03 馴獸師之王(2002
  5. 數碼暴龍04 無限地帶(2003
  6. 數碼暴龍 D-CYBER(2005

 2番から5番まではそれぞれアニメ「アドベンチャー」「02」「テイマーズ」「フロンティア」のコミカライズに相当し、激鬥!!數碼暴龍D-CYBERはどちらも携帯機をモデルにしたオリジナルのストーリーになります。

『激鬥!!數碼暴龍』はVER.5』がベースとなっており、表紙からはフライモンやメタルティラノモンの姿が確認できます。

『D-CYBER』はかつて国内で展開された『デジモンクロニクル』シリーズを基にした海外限定の携帯機『D-CYBER』の漫画化だそうです。ややこしいですね。どちらも香港でのみ単行本化されているので、お目にかかる機会はあります。

激鬥!!數碼暴龍が1998年に連載開始、2005年にD-CYBERが、余さんは実に7年もの間デジモン漫画に携わっていたことになります。そしてCO-CO!が創刊されたのが1997年なので、デジモン漫画は初期の主力作品だったと言えるでしょう。

 

漫画の魅力

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 ここまで作者と出版社と作品について大まかに説明しましたが、肝心の漫画の中身について気になった人も多いはず。この漫画、本来ならアニメで一年かけてじっくりと進めるお話を漫画で再現するためか、原作再現が駆け足な部分が多いです。小学館学年誌のコミカライズが近いでしょうか。

コミカライズの巻数もムラがあり、全五巻のアドベンチャー、全四巻のテイマーズはまだ丁寧に原作を追っていますが、終盤の展開は巻いています。それより巻数の少ない02やフロンティア(全三巻)は一クール近く展開が省略されている箇所もあります。02にいたっては何と全二巻(!)と最短なので、大筋の展開以外はほぼハブられています。

 

では、余さんのデジモン漫画の魅力とはなんなのか?

ズバリ、この漫画の魅力は圧倒的な『画力』にあります!

大胆な構図やポージングによる迫力ある戦闘シーン

オーバーなくらいのキャラクターの生き生きとした表情

そして一枚絵の表現力が特徴的です。

 

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(テイマーズ4巻、29話より)

例えばこのページ。テイマーズ本編を視聴していれば画像がどの回の何のシーンか簡単に想像つくでしょう。罪を償うために樹莉を助けようと獣王拳を放つ、ベルゼブモンの姿が印象的なあのシーンですね。

画面をぶち抜く勢いの獣王拳がインパクト抜群で、名シーンに恥じない表現です。気合を込めるあまり、ベルゼブモンの顔がちょっと楽しそうにすら見えますが、この作者ではよくある事なんです。

 

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(フロンティア2巻、11話より)

この回は原作の22話~23話に相当します。アグニモンの華麗なラッシュと、哀れにも連続攻撃を食らうメルキューレモンの顔がとても特徴的です。この漫画のアグニモンはとても生き生きと動いており、このページの他でも…

 

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アッパー(同1巻、1話より)

 

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回し蹴り(同1巻、7話より)

など多彩な格闘技で魅せてくれます。大胆な構図にアニメよりもメリハリのついた体型が映えます。人型タイプだからか、アクションシーンが描きやすいんじゃないでしょうか。漫画という媒体の恩恵を受けたキャラだと言えます。

 

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(アドベンチャー2巻、9話より)

 コミカルなシーンの再現も豊富です。

アドベンチャー11話の”帽子を木魚に見立て、ありがたいお経を唱えるとバケモンの力がほんとに弱まる”という「なんだかわかんないけどすごーい!」エピソードや…

 

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(テイマーズ2巻、13話より)

テイマーズ21話でレオモンに一目ぼれした樹里が暴走する、異色のエピソードも…

要所要所でそれとなく挟まれており、いいアクセントになっています。

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過剰にも思えるキャラクターの表情は、この漫画のチャームポイントです。

 

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(022巻、8話より)

一方で、センシティブな場面の再現もばっちりです。

これは自らの存在意義に悩むブラックウォーグレイモンとアグモンが会話するシーンですね。02 32話で見せた哲学的な会話は省略されていますが、そこは表情や仕草でカバー。白黒で逆光が上手く表現された夕焼けのシーンがとても綺麗。これも漫画ならではの表現です。

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 (アドベンチャー4巻、25話より)

後にフィギュアが製作されるほどの人気コンビ・テイルモンとウィザーモン。彼が身を挺してテイルモンを庇うシーンも…

 

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 この回は扉絵も余韻が残る味わい深いものとなっています。この残された帽子が全てを物語ってる感…。

 

余さんのコミカライズは扉絵が素晴らしい!本編よりも凛々しかったり趣のあるイラストが勢ぞろいで、どれも心に残る出来栄え。『扉絵の複製原画をプ〇ミアムバン〇イで販売してほしい!!!』ってレベルです。 

 

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 スタイリッシュなものから

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一大決戦を匂わせる勇壮なものまで…

 

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ファンならジーンとする扉絵も!

 

すっきりとしたタッチにはつらつな表情、なめらかな動き、もう眺めてるだけでメチャクチャ満足できるんですよね。アニメ雑誌に載ってる版権イラストと遜色ない出来栄えです。

上記の例はほんの一部分で、素敵なシーンやイラストはこの場で紹介しきれないほどあります。ですが一枚絵だけでも相当な情報量ですので、たとえ言語がわからなくても、イラストだけで十二分に楽しむことが出来るのが、この漫画の最大の魅力です!

 

どの国で発行されたの?

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余さんの漫画は世界各国で翻訳され、様々なバージョンが存在します。結構複雑です。

 ()内は出版会社、年は最初の作品が発刊された年を示しています。

 

香港(正文社)1998年

韓国 2001年

台湾(東立出版社)2002年

アメリカ(Tokyo pop)2003年

フィリピン(Chuang Yi Publishing)

オーストラリア(otter press)2004年

 

先述の通り、激鬥!!數碼暴龍とD-CYBERは香港でのみ、それ以外の国では(韓国を除き)フロンティアまで発刊されました。但し、Tokyo pop版はテイマーズまでしか発売されていないという噂です。*2米アマゾンでもフロンティア以降の単行本が登録されていないので、信憑性は高いです。

韓国では2000年の冬からアドベンチャーが放送され、これにあわせて2001年に漫画版が発売されました。 02(韓国では파워디지몬/パワーデジモンという題名だそうです)は2002年に1・2巻同時に出版されました。 *3

Chuang Yi Publishingはフィリピンの会社ですが、言語は英語です。フロンティアの英語版が読みたければChuang Yi Publishing版かotter press版を狙うのがいいでしょう。

こんなにたくさんの国で発行されているのに、何故、日本語版が出ていないんだ(困惑)

 

入手方法は?

自分は台湾版を全巻所持していますが、「どうやって入手したの?」と 質問されることが多いので、大まかな入手方法や手がかり、ヒントも載せときます。参考になれば幸いです。

国内未発売・海外でも10年以上前に発売されたっきりとなれば、現地の通販サイトから当時品を取り寄せるのが一番手っ取り早いと思います。私はそうやって入手しました。

たとえば、『ebay』や『タオバオ』といった海外の大手オークションサイトで検索すれば、運良く見つかるかもしれません。

語力に自信がある、海外の通販サイトに慣れている方は直接取引してもいいでしょうが、そうでなければ、海外の通販の代行業者に仲介をお願いしてみるのも一つの手です。手数料はかかりますし、業者によってピンキリですが。

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今回海外版を購入するにあたりお世話になった代行業者の方達です。この場を借りてお礼を申し上げます。

 本音を言えば復刊したり、Vテイマーみたく電子書籍するのが一番なんですけどね。国内の公式サイドから存在を語られることもない、それどころか一部の公式関係者は2018年になってようやくその存在を認知したようですし、難しいと思いますが…。

 

まとめ 

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今回の記事の執筆に至ったきっかけは、「そういや海外のデジモン漫画について詳しく解説したサイトってないな・・・?」と不思議に思ったからです。

「知る人ぞ知る…」といった感じで、ファンの間でひっそりと話題になってるのはたびたび見かけましたが、海外の事情って分かりにくいものです。自分も数年前、偶然巡回した海外サイトでこの漫画の存在を知りましたし。でもまあ、なんとなくでもこの漫画の特徴や魅力が伝わればいいなと思います。

自分は海外に滞在した経験もなければ外国語もわからんちんな人間なので、外国語のニュアンスを読み取るのに苦労しましたが、近頃は翻訳サイトの精度も上昇しているのでいいですね。

 

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4年間(+α)のアニメのエッセンスを14巻にギュギュっと詰め込んだ、贅沢なコミカライズでした。入手は難しいですが、デジモン初期4作のファンの方なら、苦労に見合うだけの価値はあると思います。語学の練習用に、翻訳ミスや台詞回しにツッコみどころを見つけるもよし、或いは感嘆するもよし、純粋に絵だけを楽しむのも一興です。この漫画を通して、一風変わったデジモンアニメの世界を堪能してみてください。

 

 

でもやっぱり日本でも売って❤

 

*1:2018年2月の時点で未だに単行本化されてないけど

*2:一方、wikimonのページによれば、最初の2巻だけが北米で出版されたと書かれています。Chuang Yi版が北米で販売されたということでしょうか?otter press版以外のフロンティア単行本を見たことがないので謎ですが…

*3:この情報は韓国在住のデジモンファンである@miruka0816さんからいただきました。情報公開については本人にも確認し了承済みです。この度は貴重な情報を提供してくださり本当にありがとうございました。