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デジタルモンスター、特にデジモンフロンティアについて、一ファンの視点から様々な記事を展開しています。

デジモンフロンティアで最高に面白い回は 37話『決戦!命ある限り デジタルワールドを取り戻せ』だ!!

 

2019年にフロンティアのBlu-rayが発売された際、公式Twitter上で『ファン投票で選ばれた一話をTVで放送する』企画が行われました。

結果として

1位:50話

2位:22話

3位:1話

でいきなり最終話がTV放映されました。納得のラインナップです。

『輝一との感動の再会が詰め込まれた大団円』

『スピリットの現界』

『拓也のターニングポイント』

『すべてのはじまり』等々…

どの回もファンから強く支持されるパワーを持っています。Twitter以外のコミュニティでアンケートを取っても、結果はそう変わらないでしょう。

デジモンフロンティアで一番面白い回は何か?』

各々の答えがあるでしょうが、この結果を見てなお私は

デジモンフロンティアで最も面白い回は37話である」

と断言します。

そう言い切れる37話の持つ『魅力』とはなんなのでしょうか。

 

 

 

〜あらすじ〜

lineup.toei-anim.co.jp

暗黒大陸は『薔薇の明星』にて遂にケルビモンと対決する拓也達。オファニモンが最後に託した「ハイパースピリットエボリューション」により、拓也達はカイゼルグレイモン、マグナガルルモンへと進化する。途中で変態アイスデビモンの邪魔が入るも、何とかこれを退け、一同は改めて決戦ムードに。

 

脚本はデジフェス朗読劇でおなじみの大和屋暁

作画監督はみんな大好き八島喜孝大先生。今回はなんと1人原画です。

演出は劇場版の監督も務めた今村隆寛さんと、正念場に相応しい実力派揃いです。

 

DWの様々なデータが歪められる薔薇の明星。「いよいよ決戦だな」純平が改めて口にすると、拓也は元気よく応えます。

友樹なんかVサインまでしちゃって、小学生ながらすっかり肝が座っています。

ケルビモンへの対抗手段はハイパースピリットエボリューションのみ。皆のスピリットを借り受け2人に集中させる進化方法は、仲間たちの戦力を削ぐデメリットがありました。

「いいのか?純平…」

輝二が気にかけますが…

「ケルビモンを倒せるのは2人だけなのだから仕方ない」と意外にも好意的な反応。

ここで31話の冒頭を思い出しましょう。

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純平は、(輝一以外の)メンバー中最も進化が遅く、そのことに劣等感をかかえていました。ヒューマン・ビーストの力を身につけ、「ようやく仲間と対等に戦える」と思ったら先を越されてしまう。そんな現状に歯痒さを覚えつつも「自分に出来ることをやろう」と納得しかけた矢先にハイパースピリットエボリューションが登場するのです。

36話では「もうお役御免かと思ったよ〜」と冗談めかしてますが、あんなに自分の不甲斐なさに悩んでた純平に思うところがないわけありません。

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ここで輝二に腹パンしたのは、冗談で場を和ませるだけでなく、自分の感情を整理する目的もあったのでしょう。軽くこづいた後にすぐ肩に回す手つきにも、悔しさだけじゃない、本気で輝二を応援する優しさも出ています。

誰よりもスピリットを渇望していた男が、やりきれない思いを匂わせつつ、仲間に激励を送る。手の動きや「負けたら承知しない」と釘を刺しながら「みんなでパーっとやろう」と提案したりと、葛藤と成長が最小限の動作で表現されています。デジフェス2022でも名場面に挙げられていましたね。

この後泉ちゃんに「1日デートの権利」を持ちかけられてすぐに狼狽する所も純平の良さというか。カッコいいんだけど絶妙にシマらない。

友樹は「勝った方を全身全霊をかけて愛してあげるチューしてあげる」と言い出すし、ボコネーパタも全力でボケ倒してて、おとぼけ感がいい具合に出ています。

そんな中で輝一は「しっかりな」と一言呟くだけで、これもまた輝一らしいんですよね。本当はもっと言いたいことが沢山あるだろうに、どうにも気後れして口調も堅くなる。

 

和気藹々とした一幕を挟みつつ、拓也と輝二はいよいよ出陣します。全てを終わらせるために…!

「いこうぜ、輝二!」に対する返しも気合が入っています。

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いつになくいい笑顔です。この輝二は薔薇の明星へ行こうぜ!って言ってくれそう。


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無言の目配せ。

一大決戦ということもあり、37話はデジモンフロンティアのツートップが並んで戦うシーンが多いです。今後しばらく出ずっぱりでは?そうですね。


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帽子を旗がわりにして応援する友樹。

32話で帽子を置き忘れたシーンもそうですが、小道具の使い方に友樹の子供らしい愛嬌が出ています。

ボコモンが「生きて帰るんじゃぞ~」と親のようなことを言ってくれるのも感慨深い。一か月ぐらい前はパタモンの親権を主張する異常おっさんデジモンだったのに、いつのまにか親心が育っていたのでしょうね。

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「「いける!!」」

新たな力とともに手ごたえを感じる二人。

大和屋脚本だからか、いつも以上に輝二のテンションが高い。ミサイルを撃つ時も「お゛おぉらぁ!」と叫んだり、クール担当とは思えない荒々しさ。劇場版でも「ざけんなよぉ〜〜〜!!!」と叫んでいましたが、実は直情型なのでしょうか。
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岩が浮いた三次元的なバトルフィールド。ここは機動力に優れたマグナガルルモンの独壇場です。縦横無尽に戦場を駆け巡り、敵を翻弄しつつ的確に目的地へ誘導していく。
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マグナがタゲ取りする間、カイゼルは必殺技のチャージ。手回し発電の如く剣を豪快に振り回し、ケルビモンを待ち構えます。進化して間もない姿ですが、釣り出し役とアタッカーのコンビネーションがキッチリハマってます。
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炎龍撃がヒット!


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龍魂剣のギミックは動かしてナンボ。変形もかっこいい。造型映えすると思うんすけどね…
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一斉射撃に加え最大火力の炎龍撃でもすぐに再生するケルビモン。大量のデータを吸収しているのもあり、流石に一筋縄ではいきません。
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お返しにケルビモンはコロニーならぬ城落としで応戦。DWのデータから再現しているみたいなので、現物ではありませんが…この城って7話のアレですかね?
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「「おおおおおおぉぉ!」」

ケルビモンの質量攻撃にも負けず、果敢に立ち向かう超越形態達。

拓也達の勇気が世界を救うと信じて…!

 

 

 


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!?
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!!?

突然の場面転換。
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拓也が戦ってたと思えば、いつのまにか場面が切り替わっています。

勝利のご褒美として約束通りキスを迫られる輝二。それを尻目に拓也は泉に膝枕してもらっています。いいご身分だ。

こんなシーンを純平が見たら脳が焼き切れそうですが、当の本人はコメディリリーフに徹しています。…?

そう、この光景はおかしいんです。純平が目の前で泉ちゃんと他の男がいちゃついて、正気でいられるか?そもそもここは現実世界?だとすればなんでボコモン達がついてきているのか?


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夢を…見てたみたいだ…

 

 

 

 


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!!?!?

さっきまでのラブコメシーンは!?
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先ほどの映像は気絶した拓也の走馬灯?だったのです。

デートで膝枕されてたのも、実際は拓也が崖にもたれかかってたのを錯覚していたからなんですね。

ここは何度も見返してようやく気づきました。そして「デジモンフロンティアでこういうテクニカルな演出ができるんだ…」と失礼ながら感心してしまいました。

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ささやかな日常を送っていた少年が、戦士に戻る瞬間。

 

敵の弱点に気づいたマグナガルルモンが「俺が盾になるから奴の弱点をつけ」と捨身の提案をぶつけます。当然、拓也も「装甲なら俺の方が…」と反論しますが、

「カッコをつけている訳じゃない!(イケボ)」

と却下されます。

『エネルギー系の攻撃はケルビモンに通用しないので、実体剣で殴るしかない』とのことです。ダブルオー一期終盤みたい。

マグナガルルモン必死の説得に、カイゼルグレイモンも覚悟を決め、

「…分かった」

「頼んだぞ…」

ただ静かに頷きます。語気を荒くしていたマグナガルルモンも普段の落ち着きを取り戻す。熟練の戦士のような悲壮感と信頼に溢れた会話。

輝二は「自分が犠牲になって勝てるのならそれでいい」と思い切りがいいし、拓也はリーダーとして、また1人の仲間として自己犠牲は見過ごせない。しかし覚悟を受け取ってしまったら、あとはもう突き進むしかないのです。

マグナガルルモンの弱点である『脆さ』を『輝二の漢気』に置き換え、純平に続いてキャラクターの長所を上手く引き出しています。


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飛んでくる瓦礫と、目の前でボロボロになるマグナガルルモンを見て、僅かに顔を歪めるカイゼルグレイモン。いくら覚悟が出来ていても、やはり辛いものがあるのでしょう。

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『いけええええええぇぇぇえ!!!!!!拓也ぁぁぁああああああ!!!!』

神谷浩史 渾身の絶叫!!

ここで注目したいのが、あえて種族名ではなく「拓也」と呼んでいるところですね。戦闘中もカイゼルグレイモンと声をかけていたのが、ここぞな場面で「いけ!『拓也』!!」と呼んでしまう。長旅で培った拓也に対する友情を感じられます。

低く威圧感のある演技は間違いなくマグナガルルモンのそれですが、実際は輝二が叫んでいる感じが凄く好きです。

マグナガルルモンが一歩間違えれば悪役みたいな顔になってるけど、輝二の叫びが胸に迫る、本当にカッコイイシーンなんです!信じてください!
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輝二の献身に応えるように…
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『おおおおおおおおおおおお!!!!!!!

!』

力強く踏み込む!!!

輝二の絶叫に呼応するような声優の演技が素晴らしい!竹内順子の魂の咆哮に、見ている側も胸が張り裂けそうになります。
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『みんなの気持ちが…俺の中に…集まってるんだ!!』
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コテコテの熱血台詞を叫ぶ拓也!そして仲間全員のカットイン!

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挿入歌で流れる『サラマンダー』の通り、『灼熱の龍』になって…飛んでいく!!

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プスー

ケルビモンの急所に剣がヒット!

ここ演出のセルフオマージュっぽい(ディア逆)。

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『デジコード…スキャン!!』

息も絶え絶えで、いつものバンクで見せる余裕が全くない。おまけに新規バンクもなし。それほどの総力戦だった。


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「またね、ケルビモン」

かつての同僚を見送るパタモン。
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ほとんど被害者っぽくもあるケルビモンもこれでようやく浄化されました。

 


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もはや根性で進化を維持する輝二。次の回でもピンピンしていましたが、生命線がものすごく長いんでしょうか。

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辛くも勝利をもぎ取った拓也達は、満身創痍になりつつも「生きて」仲間達のもとに帰ります。仲間を見かけて笑顔になる拓也が眩しい。

仲間に気づいて一瞬緊張が解ける→輝二がもたれかかる→輝二をおんぶし直す

この流れにも優しさがこもっています。

 


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◆この今後約1クールかけて子供達を翻弄しそうなシルエットは…!?

ラスボスらしき影が不気味に喋りつつ、一旦幕引きとなります。

 

 

 

これがデジモンフロンティア37話です。

おはなしとしては非常にシンプルで、「3クール引っ張ってきたケルビモンと決着をつける」、たったこれだけ。

ですが、シンプルでも「淡白」ではありません。スタッフの得意分野が存分に発揮され、37話独特の妙味がでています。

まずは脚本。大和屋先生は15話や28話など、バトルシーンやテンションの高いギャグを得意としています。しかし21話の血気盛んな拓也のように、そのパッションが前後の話から上滑りしてしまうこともしばしばありました。私は嫌いじゃないですけどね。

今回は目標が分かりやすく、その分脚本家の持ち味が遺憾無く発揮されていました。5話・31話と純平回を複数担当していただけに、純平の心境に沿った展開ができたのも非常に大きいです。

次に原画マン。八島先生はお世辞にも一枚絵に長けている訳ではありません。端麗さなら伊藤さんか竹田さん、上野さんの方が上手でしょう。

一方、四方八方飛び回る戦場を1人で難なく描き切るタフネスさ、そして躍動感は作画チームでも群を抜いています。戦闘パートが重要な回なので、八島先生が担当するのは正解だったと思います。描きわけよりも描きやすさを重視した素朴な画風も、前半のぽわーんとした空気にはよく合っていました。

細かい演出を通して、拓也達のパーソナリティが生き生きと描かれている点も重要なポイント。特に失神した拓也が幻覚から覚めた時、一瞬拓也の顔が映った後、視点がカイゼルグレイモンに変化する演出が本当に良すぎる。

超越形態として死闘を演じても、中身は小学生の神原拓也だということを改めて強調する。

最終話で拓也は『ずっと1人で戦っている気になっていた』と述懐します。実際は擬似的なパートナーと共に戦っていた。それは事実です。でも、炎の闘士として戦うなかで、拓也としての思考も確実にあったんです。一日デートの妄想も演出としては浮いているかもしれません。ですが「カイゼルグレイモンの中にも、拓也が宿っている」ことを表現するのに必要でした。「中の人」が何を考え、今までの経験をどう感じているかにフォーカスするのは、書いてみれば単純ですがとても重要なことだと思います。
夢で見た平穏?な光景、それが拓也にとっての「何のために戦うか」だったのです。

 

 

 

単純明快なプロットを盛り上げる、爆発力のある脚本。

爆発力を後押しするパワフルな原画。

チーム一人ひとりの人格や大切にしていることに寄り添った、細やかな演出。

一つの要素が突出しているのではなく、相乗効果で互いの良さが引き出されている。何度も見返すと新たな発見があるのは、それだけの完成度を誇っているからです。

だからこそ私は、

デジモンフロンティアで最高に面白い回は、『決戦!命ある限り デジタルワールドを取り戻せ』だ!!」

と断言します。

 

 

 

 

 

余談

珍しくベタ褒めした37話ですが、弊ブログでしつこく取り上げている香港漫画版でもこの回はバッチリ再現されています。

単行本では3巻収録の17話に該当。

厳密に言うと36話〜37話の再構成で、初進化からそのままケルビモンを撃破しており、残念ながら変態は登場しません。

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(:東立出版社有限公司 p69より引用)

ちゃんとした場面は単行本を買って読んでください❤️

アニメ版はカイゼルグレイモンに仲間のカットが重なる演出でしたが、漫画版はそれを一枚で表現しています。

仲間達の想いをカイゼルが背負うようなアニメ版、漫画版では振りかざす剣に全ての想いが詰まっていて、甲乙付け難いですね。ただし一枚絵の破壊力なら漫画版の圧勝でしょう。大コマの切れ味に定評のある余先生らしく、トドメの1ページもハイカロリー!

「これもう実質スパロボじゃん…」と変な興奮を覚えてしまいます。参戦した暁には何としても再現して欲しいですね(?)。

 

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(:東立出版社有限公司 p70より引用)

アニメだとあっさりしていた帰還シーン、ここは原作より好きかもしれません。拓也と輝二が支え合いながら何とか辿り着きます。「輝二のお陰で何とか勝てた」ことが伝わるアニメ版もよきですが、漫画版は「2人でもぎ取った勝利」が強調されててアツいです。

最年長と最年少に囲まれる総大将・神原拓也。そして実の兄に労われる輝二。

作中で描かれることのなかった「みんなでパーっと」を、ほんの僅かでも見られたようで嬉しいです。

 

そして17話で一番叫びたいのは、表紙絵の美しさ!!!

もう、もう本当の本当に…!!!!

特に捻ったところもない、いやだからこそ超越形態のカッコよさが際立った構図。スナイパー然としたマグナガルルモンも新鮮です。

語彙力が追いつかない、最早呪いと呼べるほど。

この格好良さは是非みなさんの目で確かめて欲しいので、頑張って入手してくださいね。